日本では、ワンオペ育児や保活など、子育てをめぐる厳しい状況がたびたび話題になりますよね。
一方わたしが住んでいるスウェーデンは、世界で最も子育てのしやすい国のひとつと言われます。
「子育てがしやすい国ランキング」でスウェーデンは、2019年に1位、2020年に2位に輝いています。
スウェーデンではなぜそんなに子育てがしやすいのでしょうか?
この記事では、驚くほど寛容なスウェーデンの子育て支援制度についてまとめました。
出産費用が無料・父親も出産に合わせ休みがもらえる
日本では住んでいる自治体や分娩方法によって、出産にかかる費用に差があります。
とはいえ、最低でも数十万円ぐらいは自己負担となるのが一般的。
一方スウェーデンでは、妊娠、出産にかかる費用は基本的に無料です。
スウェーデンでは出産休暇と育児休暇が分かれておらず、あわせて「両親休暇」と呼ばれています。
母親は、出産予定日の60日前から両親休暇を使うことができます。(この両親休暇についてはのちほど詳しく説明します)
子どもを産まない父親はというと、子どもが生まれるときに10日間の特別休暇をとることができます。
特別休暇中には給与の約80%が支給されます。
手厚い育児休暇&育児手当
両親休暇(育児休暇)は、子ども1人につき480日もらえます。
これは両親の合計の日数です。
シングルファザー・シングルマザーの場合には、1人でこの480日をぜんぶ使うことができます。
両親休暇をとっている間にもらえる手当の内訳は次のとおり。
①390日:収入の約80%
②90日:収入の大きさに関係なく、1日あたり180 SEK(約2000円)。
①については、収入がない場合には、1日あたり250 SEK(約3000円)がもらえます。
スウェーデンは手当が充実しているから、学生など、収入が無い状況でも子どもを産む人がけっこう多いよ。
また①の中には、父親専用の90日と母親専用の90日が含まれています。
父母それぞれに振り分けられた180日を除いた残りの210日は、夫婦の間で自由にゆずり合うことができます。
つまり父親が両親休暇を一切とらない場合でも、母親が使える最長の休暇日数は390日になります。
残りの90日(父親のみに割り当てられた日数)は消えてしまいます。
図にまとめるとこんな感じです。
手当 | 母親の日数 | 父親の日数 |
給与の80% |
105日 | 105日 |
給与の80% |
90日 | 90日 |
180 SEK/日 |
45日 |
45日 |
両親休暇は、子どもが満12歳になるまでの間に使うことができます。
会社員の場合、両親休暇をとる2ヶ月前に会社に申請すれば、会社はその申請を拒否できない決まりになっています。
満12歳まで使えると書きましたが、子どもが4歳になったあとにまでとっておける休暇は両親併せて96日間です。
子どもが満4歳になった時点で96日を超えて残っている日数分は消えてしまいます 。
こども手当は高校卒業まで支給
子どもが生まれた翌月から、子どもが満16歳になるまでの間、子ども手当が支給されます。
もらえる手当は子ども1人につき、1250 SEK(約1万4千円)です。
子どもが2人以上いる場合には、その数に応じて追加手当が支給されます。
子どもの数 | 子ども手当 | 追加手当 | 合計 |
1 |
1250 SEK |
ー | 1250 SEK |
2 |
2500 SEK |
150 SEK | 2650 SEK |
3 |
3750 SEK |
730 SEK | 4480 SEK |
4 |
5000 SEK |
1740 SEK | 6750 SEK |
5 |
6250 SEK |
2990 SEK | 9240 SEK |
6 |
7500 SEK |
4240 SEK | 11740 SEK |
子どもが16歳以上になったら、高校に通っているうちは「学習手当」がもらえます。
学習手当も子ども1人につき、ひと月1250 SEKです。
さらに大学生になると、CSNという機関から、給付型および貸与型の奨学金をもらうことができます。
スウェーデンでは、18歳ごろになると親元を離れて、CSNからの奨学金やアルバイト代を使って一人暮らしを始める人が多いよ。
日本の子ども手当も同じぐらいの額がもらえますが、支給期間は中学校が終わるまで。
子ども手当も、やはりスウェーデンの方が手厚い制度と言えるでしょう。
こうした手当に加えて、大学まで学費が無料というのも子育てのしやすさに大きく影響しています。
年間120日までとれる子どもの看護休暇
子ども( 8ヶ月以上12歳未満)が病気になったとき、親が看護休暇をとることができます。
この休暇は、スウェーデン語でヴァブ(Vab)と呼ばれます。
Vård av barn(子どもの世話)の頭文字をとった略語です。
2月は1年の中で子どもが最も病気になりやすい月。
だから2月(februari)は「ヴァブルアリ(vabruari)」なんて呼ばれたりするよ。
Vabを取得した日は、収入の80%弱(ただし1日あたり最大1059クローナ)が支給されます。
1年間で使えるVabの日数は、最大120日。
日本にも同じような制度がありますが、取得できるのはわずか年間5日です。
しかも有給か無休は会社によります。
それと比べると、スウェーデンはかなり寛容な制度ですね。
さらにスウェーデンでは(住んでいる地域により若干の差がありますが)20歳未満の子どもの医療費は基本的に無料。
子どもの病気に関して、スウェーデンではかなり手厚い制度が整っています。
男性の育児休暇取得率
現在のスウェーデンでは、男性の育児休暇取得率は90%を超えると言われます。
父親の育児休暇は、もはや「取るか取らないか」ではなく「どれぐらい取るか」。
ただし、育児休暇の480日を夫婦の間でどのように分け合っているかを見ると、父親が取る日数は母親に比べてだいぶ少ないのが現状です。
次のグラフは、両親に与えられた総育児休暇日数を父親・母親の間でどのように分けているかを表したものです。
現在の両親休暇の元となる制度が導入されたのは1974年。
その当時、育児休業の総日数に占める父親の取得率はわずか0.05%でした。
この割合は徐々に増え、2019年には30%に達していますが、それでも大部分は母親が使っています。
先ほどご紹介したとおり、現在の育児休暇制度では、父親専用・母親専用の育児休暇が90日ずつもうけられています。
これは男性にもっと育児休暇を取ってもらおうとするのが狙いで、1995年に初めて導入されました。
導入した当時は30日から始まり、2002年には60日、そして2016年には90日に引き上げられ現在に至ります。
これについては、両親のどちらが育児休暇をとるかは家庭内で決めるべき問題であって、法律によって定められるべきではないとの批判の声もあります。
ちなみに、社会保険庁がおこなった「親子関係」と「育児休暇の長さ」の関係性についての調査では、おもしろい結果が出ています。
「何か相談したいことがあったとき、まず誰に話すか」という質問を子どもたちにしました。
その結果、「母親」と答えたのは50%だったのに対し「父親」と答えたのは10%だったそうです。
また、父親と母親が平等に育児休暇をとった家庭の子どもの方が、そうでない子どもと比べて、両親との関係に満足しているとの回答が多かったそうです。
どうやら育児休暇の長さはその後の親子関係に大きく関係しているようですね。
スウェーデンの育児休暇制度まとめ
スウェーデンの子育てに関する制度をまとめると次のとおり。
非常に充実したものであることがお分かりいただけたと思います。
子育てにかかるお金が最小限で済むことや、育児に関する手厚い制度があることは、子育てのしやすさに大きく貢献しています。
ただ、スウェーデンが子育てしやすい理由として忘れてはいけないのは、子育て・子どもに対して寛容な社会だという点です。
日本では、こうしたことが煙たがられたり迷惑がられてしまうことがあります。
スウェーデンでは全くそんなことはありません。
これは人々が子育てに対して深い理解を持っているからでしょう。
こうした社会の寛容さが広がれば、日本もさらに子育てしやすい国になるのではないかと思います。
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