スウェーデンの税金の種類・税率・使い道。高負担でもスウェーデン人の幸福度が高い理由

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高負担・高福祉というイメージが強い北欧。

そこで暮らす人々は、実際にどんな税金をどのぐらい払っているのでしょう?

この記事では、スウェーデンの税金の種類や税率、スウェーデン人の税金に対する満足度などについてご紹介します。

こんな人に読んでほしい
  • スウェーデンの税金の種類や税率を学びたい人
  • スウェーデンの税金の使われ方が気になる人
  • 高い税金になぜスウェーデン人は満足しているのか理由を知りたい人

スウェーデンの主な税金の種類と税率

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消費税

まずは、旅行者にも大きく影響する税金「消費税」から見ていきましょう。

日本では消費税10%へ増税する前に大きな騒ぎになっていましたが、スウェーデンの現在の消費税は25%です。

しかも、スウェーデンで25%の消費税が導入されたのは今から約30年前の1991年のこと。

スウェーデンの消費税率の変化(出典:Ekonomifakta)

ただし軽減税率が適用されているため、次のサービス・商品には25%よりも低い税率が課されます。

12%食料品、外食、ケータリングサービス、美術品、宿泊サービスなど
6%書籍、新聞、交通機関(鉄道、飛行機、バス、タクシーなど)の運賃、コンサートやスポーツ観戦のチケット、美術館の入館料、など
0%
(非課税) 
医療、保険料など

所得税

スウェーデンの所得税(Inkomstskatt)には、自分の住んでいる地方自治体に対して支払う税と、国に対して支払う所得税があります。

地方自治体に対して支払う税はさらに、次の3種類から構成されます。

  • 市に対して払う税(kommunalskatt)
  • 県に対して支払う税(landstingsskatt)
  • 埋葬料*(Begravningsavgift)

(*埋葬料:自分が死んだときのための費用ではなく、一般の墓地の手入れなどに使われます。)

住んでいる地域によってそれぞれの税率は若干異なりますが、 地方自治体に対して支払う税の合計は30~35%程度です。

例えば、ストックホルム県ストックホルム市に住んでいる場合の税率(2020年)は次の通りです。(出典:ストックホルム市HP

市に対して払う税 :17.74%
県に対して支払う税: 12.08%
埋葬料:0.065%

合計: 29.885%

課される税率は一律なのですが、収入の大きさによって控除を受けられるため、実質的には収入の多い人ほど多くの所得税を納める仕組みになっています。

スウェーデンの平均月収34,600クローナに対し、手取りがいくらになるか計算したのを示すのが次の数式。

月収:34,600クローナ(約40万円)
所得税:-7,842クローナ(約9万2千円)
手取り:26,758クローナ(約30万8千円)

この場合、収入の約23%を所得税として地方自治体に納めることになります。

ちなみに、国対して所得税を納めるのは高収入の人のみ

65歳以下の人の場合、年収が504,400クローナ以上703,000クローナ以下であれば20%、703,000クローナ以上であれば25%の税を国に治める必要があります。

スウェーデン国税庁によれば、国へ所得税を納めているのは、全納税者の17%にとどまります。

相続税

スウェーデンでは、相続税は2005年に廃止されました。

廃止の理由は、富裕層が税金対策のために海外に移住してしまい結果的に全体の税収が落ち込む懸念があることや、スウェーデンの家族経営の会社から強い批判を受けたためと言われています。

Swetabi
Swetabi

1980年代には70%もの相続税が課せられていたそう。そりゃ国を逃げ出したくもなるよね。

事業主税

事業主税(Arbetsgivaravgifter)とは、日本でいう社会保険料に相当する税金です。

企業は、自社の従業員に支払う賃金に応じて、以下の定率を納める必要があります。

老齢年金10,21 %
遺族年金0,60 %
疾病保険3,55%
両親保険2,60%
労災保険0,20%
労働保険2,64%
一般賃金税11,62%
合計31,42 %

スウェーデンでは人を雇うのに大きな費用がかかるのです。

法人税

法人税(Bolagsskatt)とは、株式企業などの法人による売り上げに対して課される税です。

現在の税率は21.4%ですが、2021年からは20.6%に引き下げられる予定となっています。

ガソリン税

2019年のスウェーデンにおけるガソリンの値段は平均15.75クローナ/リットル。

しかしこの内訳を見てみると、約62%はガソリン税(Bensinskatt)で占められていることが分かります。

ガソリン代:6,03クローナ
ガソリンに対する消費税(25%): 1,51クローナ
エネルギー税: 3,95クローナ
二酸化炭素税: 2,62クローナ
税に対する消費税(25%):1,64クローナ

合計: 15.75クローナ/リットル

※ガソリン税とは、エネルギー税、二酸化炭素税、消費税を合わせた通称です。

自動車税

自動車やバス、バイクなどの所有者に課される税が自動車税(Fordonsskatt)です。

ガソリンで走る車の場合には、以下の税金が課されます。

基本自動車税:360 kr/年

二酸化炭素税:
走行距離1kmあたり95~140gの二酸化炭素を排出する自動車に対しては、82クローナ×g。
走行距離1キロあたり140g以上の二酸化炭素を排出する自動車に対しては、107クローナ×g。

ディーゼル車は環境への負担が大きいとして、ガソリン車よりもさらに追加で税金が課せられます。

酒税

アルコール度数と容量に応じて、一定の税率で酒税(Alkoholskatt)が課されます。

例えばビールに対する税率は次のとおり。

アルコール度数0.5以上2.8%未満:なし
アルコール度数2.8%以上:2.02クローナ

例:5.5%のビール4リットルにかかる酒税
2,02(クローナ)× 5,5(%) × 4 (リットル) = 44,44 クローナ

ワインの場合には、アルコール度数によってさらに細かく税率が分かれています。

一般的な度数8.5~15%の場合には26,18 kr×容量が酒税として課されます。

飛行機税

飛行機税(Flygskatt)は、環境に対する影響への配慮から2018年4月に導入された税です。

フライトの目的地に応じて、乗客員一人当たり以下の税金が課されます(2020年の税率)。

① 62クローナ:スウェーデンの国内線や近隣諸国。
② 260クローナ:①よりも遠いヨーロッパや中東の国。
③ 416クローナ:それ以外の国。

納税義務はフライトを運営する航空会社にありますが、実態としてはこの税金分がチケット料金に上乗せされています。

公共放送税

国営のテレビ・ラジオを運営するための費用として、収入の1%(上限は1300クローナ/年間)を税金として納めます。

スウェーデンの税金の使い道

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スウェーデンでは税金で手厚い社会保障や教育が賄われています。

税金で賄われている主なサービス
  • 学費(小学校から大学まで無料
  • 医療費(18歳未満&85歳以上は原則無料。妊娠検診や出産費用も無料
  • 奨学金(フルタイムの学生の場合、1週間あたり2,715クローナ(うち823クローナは給付、残りは貸与) )
  • 子ども手当(子ども一人当たりに対し1,250クローナ/月)
  • 傷病手当(通常の給与の80%が一定期間支給)
  • 失業手当(前職給与の80%が一定期間支給)

それでは、納めた税金がどのように使われているのか、ストックホルム県と市を例に見てみましょう。

税金の使い道の内訳(ストックホルム県)

出典:ストックホルム県HP

税金の使い道の内訳(ストックホルム市)

出典:ストックホルム市作成資料(2014)

県と市でそれぞれ医療、教育、福祉に大きな財源が割かれていることが分かります。

スウェーデン人は高い税金に対して不満を感じていないの?

「税金が高い方が嬉しい!」という人はあまりいないと思います。

でもスウェーデン人は高い税金に対して不満を抱いている様子はありません。

それどころか、社会がより良くなるのであれば、さらに高い税金を払っても構わないという人もいます。

なぜスウェーデン人は高い税金でも満足できるのか、その理由を見てみましょう。

国税庁に対する高い信頼

税金の高さが不満であれば、税金を回収する機関に対して怒りの矛先が向いてもおかしくはありませんが、スウェーデンの人々は国税庁に対して高い信頼と満足を感じています。

スウェーデンの公的機関に対する国民の信頼度を図る世論調査によれば、40の公的機関に対する国民信頼度をアンケートしたところ、国税庁は9位にランクインしました。

納税に影響を及ぼす情報(収入、住所、配偶者や子どもの有無など)は、基本的に国税庁を通じて一元管理されています。

IT化が進んでいるスウェーデンでは、納税に関する手続きや確定申告など国税庁のサービスの多くがオンラインで利用可能です。

このように明瞭でカスタマーフレンドリーなサービスを提供する国税庁のことを人々は高く評価しています。

これは、納税に対する余計なフラストレーションを生まずに済んでいる理由のひとつかもしれません。

行政サービスの質と内容にも満足

スウェーデンで納めた税金の多くは、教育や医療など、人々の日常生活に最も身近な行政のために使われています。

Svenskt Kvalitetsindexという機関が行った調査によれば、主要な行政サービスに対してスウェーデン人が非常に高い満足度を示しているとの結果が出ています。

次のグラフは、各公的サービスへの満足度を100点満点で測った際の満足度です。

このように身近な行政サービスに対して満足しているということは、納税した分がしっかり還元されていると感じている人が多いことを示していると言えます。

税金は国民が選挙を通じて決めたもの

スウェーデンは選挙投票率が非常に高いことでも有名です。

前回の国政選挙(2018年)の結果は87.2%でした。

過去25年間で、国政選挙の投票率が80%を下回ったことは一度もないのです。

県議会および市議会の選挙でも、同様の高い数字が示されています。

 国政選挙県議会選挙市議会選挙
201887,283,784,1
201485,882,482,8
201084,68181,6
20068278,879,4
200280,177,577,9
199881,478,178,6
199486,884,384,4
199186,78484,3
19888684,284
198589,98887,8
198291,489,889,6
197990,789,289
197691,890,590,4
197390,890,790,5

スウェーデンの選挙投票率(出典:スウェーデン中央統計局

国民が常に政治に高い関心を寄せているからこそ、スウェーデンでは政治の透明性が高く保たれています。

また、国民一人ひとりが選挙に積極的に参加するため、税金の使い道を決めているのは自分たちだという自負があるのだと思います。

スウェーデン人は、誰かが勝手に決めたルールに従うのは嫌いますが、自分で決めたことに対しては責任を全うするという考えを持った人々なのです。

スウェーデンの税金まとめ

税金の使い方を見ると、その国がどういった分野を重視しているのかが見えてきます。

スウェーデンでは教育、医療、福祉など、人々の生活の質を向上させるため非常に重要なものに税金が使われています。

だからこそ、高負担でも国民の幸福度が高いのではないでしょうか。

ちなみに 「税金」 はスウェーデン語で「skatt」と言いますが、この単語にはもう一つの意味があります。

それは「宝物」という意味です。

スウェーデンの人々にとっての 税金は、豊かな生活を保障してくれる宝のような存在なのかもしれません。

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